【理論と実践】「異論を唱える義務」を負った国会事故調
~医療・介護に関わる職員が、安心して、仕事の生産性高く、充実して働ける未来の一助へ~
ご友人等へのメルマガ紹介はこちらから。
https://www.mag2.com/m/0001682907
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
令和7年3月15日 医療・介護経営の理論と実践 2498号
■「異論を唱える義務」を負った国会事故調
中神勇輝(なかがみゆうき)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おはようございます。中神です。
『なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか』の
第4章の「異論を唱える義務」を体現した国会事故調の取り組みについて掘り下げます。
■国会事故調の独自性と設置の背景
日本の政治構造においては、政府の力が強く、国会の監視機能は必ずしも十分とは言えません。
「日本では、政府の力が強く、国会は国権の最高機関とはいうものの
議会として政府を監視するという機能は必ずしも強くはなかった。」(引用)
しかし、福島第一原発事故という未曽有の危機に直面し、
独立した調査機関の必要性が認識されました。
その結果、「当事者から独立した調査機関が必要であるとの強い認識を持った
国会議員が中心になって事故後九カ月をかけて実現にこぎつけた」のです。
この国会事故調は、国内外からの信頼回復のために
憲政史上初めて設置された画期的な取り組み、と言えそうです。
国会事故調の設置法には、
「立法及び行政の監視に関する機能の充実強化に資する」と明記されており、
国会による行政府に対するガバナンスを明確にするという重要な役割を担っていました。
調査の独立性を担保するため、どのヒアリングを公開するか、
非公開で行うかなど、調査方法の決定権が委員会に与えられたことは極めて重要でした。
これにより、政治的圧力や外部からの干渉を受けることなく、
真に独立した調査が可能となりました。
■独立性の重要性
当事者による自己評価には本質的な限界があります。
「事故の当事者が自ら自己点検しその原因を究明し再発防止に
取り組むことは必要ではあるが、仮にその根本的原因が
自らの組織に及ぶことがわかった場合、
それを正しく評価できるのかどうかは疑問が残る。」(引用)
私たちは誰しも自分の欠点を客観的に見ることが難しいです。
これは個人でも組織でも同じです。
特に大きな失敗や事故が起きた場合、当事者は無意識のうちに自己防衛的になり、
真の原因追求よりも責任回避に傾きがちです。
だからこそ、「当事者から本当に独立した第三者によって客観的な評価が行なわれること」が
信頼回復への第一歩となります。
多くの組織では「部外者に何がわかる」
「当事者の苦労も知らないで言いたいことを言われるのはまっぴらだ」
という防衛的な反応が生じます。
このような閉鎖的な姿勢こそが、問題の根本的解決を妨げる要因となります。
組織の信頼性を回復するためには、「牽制機能としての「独立性」は必須」なのです。
実は、独立した第三者による評価は、当事者にとっても大きなメリットがあります。
「第三者による評価は、自身とは直接の利害関係のない独立的な調査主体に
原因究明をゆだねているということで、世界からの信用が得られやすい」からです。
これは、透明性の高い組織であることを世界に示す絶好の機会となるのです。
■「異論を唱える義務」を果たすための体制
国会事故調が「異論を唱える義務」を果たすためには、
委員会の独立性と中立性が実質的に担保されていることが不可欠でした。
形式的な独立性だけでなく、実質的な独立性が確保されていたからこそ、
真に価値ある調査が可能になりました。
具体的には、委員だけでなく事務局構成員すべてが独立性と中立性を保ち、
多様なバックグラウンドを持った人材が共通の目的のもとに結集していました。
さらに、個人の価値観ではなくファクトに基づいた議論を行い、
可能な限り透明性を保ちながら進めるという方針が徹底されていたのです。
これにより、「事業者、官僚機構、あるいは政治家からその結論に関しての
圧力がかからない状態が維持された真の独立委員会」となりました。
このような体制構築は、どのような組織においても「異論を唱える義務」を
果たすための参考になるでしょう。
■ファクトベースの重要性
国会事故調の議論において最も重要だったのが「ファクトベース」の姿勢です。
委員長は各委員に対して、「個々人の勝手な価値観でものを言わないこと」を徹底しました。
もしそうなれば「この一〇人で意見がまとまる可能性は限りなく小さくなる」からです。
これは組織における意思決定の本質を突いています。
個人の価値観や主観に基づいた議論では、意見の対立が解消されず、
合意形成が困難になります。
しかし、客観的な事実に基づいて議論することで、
異なる立場の人々の間でも共通の基盤が生まれ、建設的な対話が可能になるのです。
国会事故調では膨大な調査やヒアリング、アンケート調査を通じて事実の収集に努めました。
このような徹底した事実収集があったからこそ、
「異なった考え方の委員間においても、お互いがファクトベースで
メッセージを出していくことの重要性を理解」し、
最終的に全委員が同意する報告書の提出が可能になったのです。
組織においても、感情や個人的見解ではなく、ファクトに基づいた議論を心がけることが、
健全な「異論」を生み出す土壌となるでしょう。
■透明性と非公開のバランス
国会事故調は透明性を重視しつつも、調査の実効性を高めるため、
非公開での活動も適切に取り入れました。参考人質疑は公開で行われましたが、
関係者ヒアリングについては非公開で実施されました。
「原則的に非公開という条件で一〇〇〇人近い関係者ヒアリングを実施した」
というのは驚くべき数字です。
これは、「非公開ではじめて証言してくれる人が多い」という現実を
踏まえた賢明な判断だったと言えるでしょう。
このヒアリングから必要な資料の存在が明らかになり、
それを調査権で請求して公開することも多くありました。
このように、透明性の原則を維持しながらも、
状況に応じて非公開の手法を取り入れるバランス感覚は、
組織における「異論を唱える義務」の実践においても重要な示唆を与えてくれます。
■課題分析の重要性
国会事故調は「プロジェクトの早い段階で課題分析を行ない」、
効率的な調査を進めるための準備を入念に行いました。
これにより、限られた時間と資源の中で、最大限の成果を上げることができたのです。
この取り組みは、「異論を唱える義務」を果たすための要件が、
「多くの組織にとって身近に存在する「巨大生物」に挑戦するための要件にも重なってくる」
ことを示しています。つまり、どのような組織においても、
既存の枠組みや権威に挑戦し、健全な「異論」を唱えるためには、
綿密な準備と戦略が必要なのです。
■おわりに
国会事故調の例から学べることは、真に「異論を唱える義務」を果たすためには、
独立性と中立性の確保、多様性と共通目標の設定、ファクトベースの議論、
適切な透明性の確保などが重要だということです。
これらの要素は、多くの組織が直面する「巨大生物」に挑戦するための要件にも
通じるものであり、組織の健全性を保つために欠かせない視点といえるでしょう。
自分たちの組織では「異論を唱える義務」は、どのように果たされているか、
また、その体制はどのように構築されているか、
事例を通して、振り返ってみたいですね。
以上です。では、また明日(^-^)v
(当該内容は、私の所属する組織とは一切関係はなく、全ての文責は私個人に属します。)
テーマについて、ご要望あれば、コメントをどうぞ。
◇病院経営の見える化について公開講座(動画)の講師をする機会を頂きました。感謝(^_^)
https://hcmi-s.net/weblesson-hcm/jmp_consult_01/ (講座)
https://healthcare-mgt.com/article/iryo/jmp_consulting01/ (紹介)
◇過去の内容、記事はこちらから是非(^-^)
https://wakuwaku-kokoro.net/
◇試験勉強や本の学びをアウトプットしているYouTubeチャンネルは、こちらです(^-^)
https://youtube.com/channel/UC_PiglYG9qTBjlJ3jt3161A
この記事を書いたのは、こんな人。
ーーーーーーーーーーーーーーー
中神勇輝。地方の中小病院に勤務する医事課畑出身の企画部門所属。
中小企業診断士、医療経営士1級。
趣味は、マラソン、ドラム、家庭菜園、筋トレ(HIIT)、読書。